研究紹介

血管内治療

エボロクマブによる周術期冠微小循環障害予防に関する無作為割り付け試験

狭心症に対する経皮的冠動脈形成術(Percutaneous Coronary Intervention: PCI)ではプラーク内容物の塞栓による冠微小循環障害が原因となり周術期心筋梗塞を生じることがあります。スタチン前投与による周術期心筋梗塞の予防効果が報告されていますが、より強力なLDLコレステロール低下作用のあるPCSK9阻害薬(エボロクマブ)の前投与によるPCI周術期冠微小循環障害の予防効果を検証する全国14施設が参加する無作為割付試験、EVOCATION研究を主宰しています。EVOCATION研究ではPCIを予定しているスタチン投与下に高LDLコレステロール血症を有する安定冠動脈疾患患者を対象として、2~6週間のエボロクマブ治療により周術期微小循環障害が軽減することを、冠微小循環の臨床的な指標であるthe index of microvascular resistance(IMR)を用いて評価します。

血管内イメージングデバイスと冠動脈病理の検証研究

虚血性心疾患である狭心症や急性冠症候群に対してはインターベンション治療が有用であり、様々な血管内イメージングデバイスを用いてインターベンション治療を行います。薬物療法やステントテクノロジーの発達によりステント留置後のステント血栓症や再狭窄は減少しました。しかしながら、これらの発生機序と自然経過に関しては依然解明されていない部分が多くあります。そこで我々は、病院病理部と共同で、血管内イメージングデバイスを用いて剖検症例の冠動脈を観察し、冠動脈粥腫やステント内を正確に可視化する研究を行っています。血管内イメージングデバイス画像と病理像との相違点を評価することで動脈硬化の自然経過やステント留置に対する血管反応を解明しようと努めています。

STEMIとNSTEMIにおける非責任血管でのプラーク性状の比較検討

急性心筋梗塞(Acute Myocardial Infarction: AMI)は非ST上昇型急性心筋梗塞(Non ST-Elevation acute Myocardial Infarction: NSTEMI)とST上昇型急性心筋梗塞(ST-Elevation acute Myocardial Infarction: STEMI)と病態が分類されます。一般的にNSTEMIの長期予後はSTEMIのそれと比べて悪いと言われていますが、その原因は明らかではありません。今のところSTEMIとNSTEMIの患者さんにおいて、冠動脈の動脈硬化の性状を冠動脈内画像診断装置を用いて詳細に比較検討されているデータは無く、本研究では前向き研究としてAMIに対して緊急PCIを施行された患者さんの非責任血管を、OCTを用いて冠動脈の動脈硬化の状態をSTEMIとNSTEMI間で比較検討する研究を行っています。本研究によりNSTEMIの患者さんの悪い長期予後の原因に対しての知見を得ることに繋がり、NSTEMIを発症された患者さんの長期予後の改善に寄与できると考えます。

急性心筋梗塞におけるステント留置1年後の被覆状況に関する比較検討

急性心筋梗塞(Acute Myocardial Infarction: AMI)は非ST上昇型急性心筋梗塞(Non ST-Elevation acute Myocardial Infarction: NSTEMI)とST上昇型急性心筋梗塞(ST-Elevation acute Myocardial Infarction: STEMI)があり、一般的にSTEMIのほうが心筋ダメージは大きく、短期間での予後は悪いと言われています。しかし、NSTEMIの長期予後はSTEMIのそれと比べて悪いと言われており、その原因は明らかではありません。ステント留置後の内膜非被覆部位はステント内血栓症と関連していると報告されており、光干渉断層診断(Optical Frequency Domain Imaging: OFDI)は、冠動脈ステント留置後の内膜被覆化の状態を詳しく観察することができるイメージングデバイスです。当院ではAMIに対して緊急経皮的冠動脈形成術(Percutaneous coronary intervention: PCI)が施行された一年後に、OFDIを用いて責任血管に留置された第二世代以降の薬剤溶出性ステント内の内膜被覆状況を比較検討することを目的として研究を行っています。本研究により、NSTEMIを発症された患者さんの長期予後の改善に貢献できると考えています。

薬剤溶出性ステントを留置後の早期血管反応の検討

現在、急性心筋梗塞(Acute Myocardial Infarction: AMI)においての再灌流療法として薬剤溶出性ステント(Drug-Eluting Stent: DES)を用いた経皮的冠動脈形成術(Percutaneous Coronary Intervention: PCI)が標準的な治療法となっています。DESを冠動脈へ留置後は優れた長期の病変開存率が示されている一方で、PCI後の血管治癒反応が遅延することによる慢性期のステント血栓症(Stent Thrombosis: ST)が問題となっています。DES留置後の血管反応について、未だに明確に解明されていない点が多く、ST発症に対しての治療・予防方法が確立していないのが現状です。本研究では前向き研究として、DESを用いたPCIを施行された患者さんを対象としてPCI後3カ月の時点で、非常に良好な解像度を特徴とする冠動脈内画像診断方法である光干渉断層法(Optical Coherence Tomography: OCT)を用いて、冠動脈の治癒反応を詳細に評価しています。本研究により、DESに対しての血管反応の評価することで、より安全なDES留置術に貢献できると考えます。

下肢動脈石灰化病変の形成メカニズムに関する研究

近年、カテーテル治療デバイスの発展に伴い様々な循環器疾患が治療可能となってきました。一方で石灰化病変に対する治療成績は十分なものではなく、日常臨床における大きな問題となっています。また、石灰化病変に関しては発症メカニズムなど不明な点が多く、新しい治療方針の確立のためにも更なる研究が必要であります。我々はこれまで大動脈弁領域で石灰化のメカニズムに関する研究を行い、大動脈弁狭窄症の進行に弁尖内血管新生と新生血管の破綻による弁尖内出血が関与していること、NFκB-HIF pathwayが大動脈弁における石灰化に関与していることを明らかにしてきました。一方、動脈石灰化のメカニズムは不明であり、治療が困難な場合が多いのが現状です。そこで、我々は下肢大腿動脈と大動脈弁と石灰化病変の類似性に着目し、下肢動脈石灰化病変とNFκB-HIF pathwayとの関連性の検討により、動脈の石灰化病変の発生機序を解明することを目標としています。本研究は、新しい治療法の確立に繋がる可能性があり社会的にも意義の大きい研究であると考えています。

末梢動脈疾患とリポプロテイン(a)の関連性について

リポプロテイン(a)は動脈硬化の独立したリスク因子として報告されていますが、末梢動脈疾患とリポプロテイン(a)との関連性に関しての報告はあまりありません。当院で末梢動脈疾患に対してカテーテル治療を受ける患者さんを対象に、末梢動脈疾患の重症度や予後データを収集し、リポプロテイン(a)データとの関連を検討しています。関連性が認められれば、リポプロテイン(a)の治療介入をすることで末梢動脈疾患の予後を改善できると考えています。

末梢動脈疾患において血管内治療前後の血行動態の変化

末梢動脈疾患(PAD)の生命予後は悪く、死因として心疾患や脳血管疾患などの血管病変に起因するものが多く占めています。そのため、PADに対しては末梢動脈の治療だけでなく全身管理の治療が必要とされています。PAD患者に対して血管内治療は標準的治療の一つとして広く施行されており、過去の小規模な研究では血管内治療により収縮期血圧・拡張期血圧の低下により心腎保護につながるという報告があります。しかしながら、過去の報告では症例が少なく、また心機能に関する詳細な検討がなされていません。当院では血管内治療が心機能や全身の循環動態に与える影響を心エコー検査を併用することで詳細に検討する研究を行っています。

 

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